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江戸時代 福岡の船乗り孫太郎の体験が壮絶すぎる

江戸時代の福岡に孫太郎(まごたろう)という船乗りがいました。

筑前船漂流記」という古文書に孫太郎が体験したできごとが記されているのですが、その内容がなかなかすごいものでしたので、他の資料なども参照しつつ、簡単に要約して紹介したいと思います。


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▲ 孫太郎は 1744年 唐泊浦(現在の福岡市西区宮浦)に生まれました。地図で言うとこの周辺です。

▲ 「筑前国志摩唐泊之図」という古地図を確認してみると、現在と変わらない規模の集落が昔からあったようで、孫太郎もまさにこのあたりに生まれ、暮らしていたのではないかと思われます。(※古地図は東林禅寺の案内看板より)

【孫太郎の仕事】

孫太郎は船乗りとして米を輸送する仕事に従事していました。

船乗りとしての階級は決して高いものではなかったようで、一介の船員として仕事をしていました。

※ちなみに江戸時代は低い身分の人は苗字を名乗ることが認められていませんでしたので「〇〇孫太郎」ではなく、単純に「孫太郎(まごたろう)」が彼の名前です。

孫太郎が20歳の時、中津藩(現在の大分県中津市)から依頼を受けて、約20人の船員の一人として中津藩の米を江戸へ運びました。

中津藩の米を運び終えると、今度は江戸で津軽藩(現在の青森県西半部)から依頼され、江戸から青森へ米を運ぶことになりました。

【塩屋埼で嵐にあう】


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▲ その船旅の途中の10月20日、福島県いわき市の塩屋埼沖合で嵐にあってしまいます。

船は浸水が激しく、積荷を海に捨てて立てなおそうとしますが、それでも沈んでいきそうになります。

かと思えば高波で空に浮かぶほど上昇したり、今度は再び沈みそうになったり・・・。

それが約10日も続き、孫太郎は「どんな地獄でもこれよりひどいものはない」と表現しています。

【2ヶ月におよぶ漂流】

嵐はおさまったものの、船体が激しく損傷していたため操縦ができなくなってしまいました。

船は南に向かってひたすら流されていきます。

船員たちはお互いに励まし合いながらなんとか耐えました。

途中、自殺をはかろうとする者も現れますが皆で引き止め、そのことがきっかけで船員たちはさらに団結していきました。

水や粥、米を20人で分けあって、魚を釣ったりして飢えをしのぎました。

【陸地を発見】

2ヶ月を過ぎた頃、船員たちは死を覚悟しはじめます。

しかし、1月1日、ついに陸地を発見します。

▲ 船員たちは薩摩(鹿児島)か琉球(沖縄)あたりに流れ着いたのだと考えました。

しかし、降り立ってみるとどうも様子が違います。

植物も日本にはないものですし、鳥の鳴き声も違います。

▲ 実は孫太郎たちは琉球よりもはるかに南、フィリピンのミンダナオ島にまで流されていたのです。

沿岸部に民家がないかと調査をしていると、見たこともない格好をした原住民に取り囲まれてしまいます。

原住民たちは攻撃をしてくるわけではなく、食事も与えてくれましたが、所持品を奪われて牢屋に監禁されてしまいました。

その後、数週間のうちにあるものは病死し、あるものは原住民に連行されてそのまま戻って来ませんでした。

【海賊の奴隷にされる】

20人にいた船員はこの時点で7人になっていました。

▲ 残った7人はさらに西のスールー諸島の奴隷商人のもとに連れて行かれました。

まず、5人が海賊の奴隷として売られていき、孫太郎と幸五郎が残されました。

しばらくして2人も同じように海賊の奴隷として売られ、その後も様々な人のもとへ奴隷として転々とさせられました。

2人が奴隷としてどのようなことをさせられていたかというと、宴会の際に日本の芸や歌をさせられていたと記されていることから、おそらく見世物として使われていたのではないかと思われます。

遠方の国から着た奇妙な連中といった感じで扱われ、飽きたら別のところに売られる というものだったのではないかと思います。

▲ 次に二人はスールー諸島から南に下ったバンジャルマシンに連れて行かれることになりました。

しかし、その途中で幸五郎が病死してしまいます。

お互い励まし合いながら耐えていたのですが、孫太郎はついに一人になってしまいました。

孫太郎は悲しむ間もなく、バンジャルマシンに到着するとすぐに奴隷市場で売りに出されました。

ーーーーその2につづきますーーーー

【参考文献】
・東京海洋大学附属図書館 筑前船漂流記
・Wikipedia 孫太郎
石井研堂「日本漂流譚」の試み
・東林禅寺の案内看板

Y氏(山田全自動)
ふるほん住吉店主:Y氏(山田全自動)
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福岡で古本屋「ふるほん住吉」の店主をしつつ、ブロガー/イラストレーター/執筆業などをしながら自由気ままに暮らしています。著書:福岡路上遺産(海鳥社)、福岡穴場観光(書肆侃侃房)、山田全自動でござる(BOOKぴあ)など
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