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福岡市立霊園と多死社会の墓地問題

福岡市立霊園と多死社会の墓地問題に関して。



私たちは死んだらどこへ行くのだろう・・・というのは概念的な話ではなく、我々の遺骨、そして墓の話である。

福岡市では『平尾霊園(南区)』『三日月山霊園(東区)』『西部霊園(西区)』の三箇所に市立霊園(公園墓地)を運営している。[1]

↑福岡市立霊園のパンフレットより

2022(令和4)年においては、いずれの霊園も募集区画数に対して10倍以上の申し込みがあり、市立霊園に墓を持つことはなかなか困難な状況となっている。[2]

特に平尾霊園については利便性が高く、かつ、料金も寺などの民間運営の墓地より安いこともあって、応募が殺到しているという。

身も蓋もない話をしてしまえば、金銭さえ惜しまなければ民間の霊園や寺などで、いくらでも利便性が高く、本人及び遺族の希望通りの墓が建てられる。

しかし、現実には経済的な事情などからそうもいかない人がほとんどであり、比較的安価で、ある程度のクオリティが担保されている市の墓地に人気が集中するのは当然のことといえる。

また、寺や民間霊園の経営破綻によって突然納骨堂や墓地の運営が打ち切られるという事態(※下記に一例を記載)に対する不安もあり、そういった面においても市営の墓地は安心感があるというわけである。

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札幌の納骨堂が実質破綻し閉鎖 代表者が行方不明、遺骨引き取れず
https://mainichi.jp/articles/20221107/k00/00m/040/178000c

あなたのお墓が子孫の「負動産」になる日(横浜霊園の事例)
https://president.jp/articles/amp/23330?page=1

福井の寺院「永宮寺」が破産決定受け倒産、遺骨は返却へ
https://www.fukeiki.com/2010/08/eiguji.html

宮城の宗教法人「萩恩院」が破産決定受け倒産、負債24億円
https://www.fukeiki.com/2012/09/shuon-in.html

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今後、さらに少子高齢化が進むことは確実である。福岡市における死亡者数は現在においても年間10000人を超えており、約30年後にはさらに2倍近くに達すると考えられているという。[3]

そうなると、霊園への需要は今とは比較にならないほど高まるといえるだろう。

そこで疑問に思うのが、このような状況で、なぜ企業がこのビジネスチャンスに食いつかないのかという点である。

これだけ墓に対する需要があるのならば、どこかの企業が積極的に墓地経営をやってもよさそうなものである。

企業が墓地経営を行わない(行えない)要因の一つは、墓地の用地確保のハードルの高さがある。

都心部の地価が高いというだけでなく、墓地として土地を利用するためには「墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)」の「墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあっては市長又は区長)の許可をうけた区域をいう」(法第2条第5項)でなければならない。[4]

つまり、墓地として土地を利用するには、おいそれと簡単に認可が下りるような類のものではないということである。

また、墓地の経営主体となれるのは地方公共団体(都道府県・市町村)が原則であり、その他には宗教法人、公益法人のみとなっている。

そもそもの話として利益を目的とする企業は墓地の経営が行えないのである。

では、経営主体となることができ、墓地に転用できそうな土地も所有している地方公共団体が、なぜもっと墓地を増やさないのだろうか。

一つは財源確保の難しさにある。

墓地を作るには、土地の造成費用だけでなく、日々の清掃など永続的な管理費用も必要となる。

地方公共団体の墓地は営利を目的としたものではないため、これらの維持管理を行なっていくだけの財源をどこからか捻出しなければならないという課題がある。

そしてもう一つは墓地周辺の住民に対して合意を得る必要があるという点である。

墓地という性質上、どうしても近辺の土地の評価にマイナスな影響が出るのは避けられないため、周辺住民に対して十分な説明を行い、納得してもらわなければならない。

これに非常に時間がかかるというのも、新たに墓地を作れない要因の一つとなっている。[5]

墓を持つことができず、遺骨のやり場に困って不法に投棄したり、故意に電車に忘れたりするなどの事例が増える可能性があるというのは行政としても悩ましいところだろう。

このような状況から、近年、「合葬墓」を導入する地方公共団体が増えているという。[6]

合葬墓とは、簡単に言うと大きな墓に複数の遺骨が一緒に埋葬されるタイプの墓である。

コンパクトな敷地に多数の埋葬が可能で、現状の墓地内に工事を行うことで設置できることから新たに用地を確保する必要もなく、また、合葬なので墓を一元的に管理できて手間も少ないというメリットもある。

そして、利用者側としても経済的にも利便性的にも遺族への負担が少ないため、合理的な考え方の合葬墓に対する需要は高まっているといえる。[7]

福岡市の平尾霊園においても、2021(令和3)年3月に合葬墓(最大36000体の埋葬が可能)が完成し、利用者の募集が行われた。

↑合葬墓イメージ図※福岡市霊園「平尾霊園合葬式墓所について」より https://www.fukuokashi-reien.jp/reien/hirao#gasso

平尾霊園の合葬のプランは『直接合葬』『10年間個別埋蔵後合葬』『20年間個別埋蔵後合葬』『30年間個別埋蔵後合葬』四つに別れる。

直接合葬では遺骨が合同埋蔵室に直接埋葬される。

↑平尾霊園の合同埋蔵室(※画像:福岡・佐賀KBCニュース「福岡市の平尾霊園に合葬墓…26日から運営開始」より)[8]

合同埋蔵室に埋葬される際、遺骨は↑こちらの画像の左に置かれている納骨袋に入れられる。合同埋蔵室に埋葬されると、遺骨を見せてもらったり返却してもらったりすることはできなくなる。(※画像:福岡・佐賀KBCニュース「福岡市の平尾霊園に合葬墓…26日から運営開始」より)

10年間個別埋蔵後合葬』『20年間個別埋蔵後合葬』『30年間個別埋蔵後合葬』については↑こちらの画像の個別埋蔵室に、契約に応じて10年〜30年遺骨が骨壷に入った状態で置かれ、その後、納骨袋に入った状態で合同埋蔵室へ移される。(※画像:福岡・佐賀KBCニュース「福岡市の平尾霊園に合葬墓…26日から運営開始」より)

こちらの場合でも、一度、個別埋蔵室に入れられたら、原則として見たり取り出したりすることはできなくなるそうだ。(※「やむを得ない理由」がある場合、個別埋蔵室の遺骨であれば「焼骨返還申出書」を提出して返還される場合もあるとのこと→https://www.fukuokashi-reien.jp/img/riyo/01_02_riyonotebiki_gasso.pdf

合葬墓は一般的な墓を設けるよりも大幅に安価で、先祖代々継承していく必要もなく、さらに年間の維持費も不要ということから利用者側にもメリットが多い。

ただし、縁もゆかりもない複数人が合葬されるため、遺骨が赤の他人と混ざったり、同じ場所に密接して置かれてしまうことに抵抗がある人には不向きであるといえる。

また、一度埋葬してしまうと、遺骨を見せてもらったり、返却してもらったりすることは基本的にはできない。

本人も遺族も、ある程度の割り切りが必要になるタイプの墓ともいえる。

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利便性を比較するためにも、実際に『平尾霊園(南区)』『三日月山霊園(東区)』『西部霊園(西区)』の三箇所の福岡市立霊園に行ってみることにした。(※ 福岡市立霊園内の見学は自由に可能とのこと。ただし、担当者による案内や説明等は行なわれていない。)

【平尾霊園】

平尾霊園は福岡市中心部からも近く、公共交通機関(バス)でのアクセスも可能だった。

墓地特有の陰鬱とした雰囲気はまったく無く、普通の公園内を散歩しているような清々しさがあった。

実際、散歩している風の人も複数見かけた。

ゴミひとつ落ちていないほど管理が行き届いていて、管理事務所、トイレなども非常に綺麗だった。

新たに完成した合葬墓もモダンな建物で、前向きな気持ちで墓参りができそうだ。

ここが福岡市内だと忘れてしまうほど自然に囲まれていて眺めも良かった。

霊園内には車の乗り入れも可能なので、車で行く場合は墓のすぐそばまで横付け可能。

平尾霊園に人気が集まる理由が分かった気がする。

【三日月山霊園】

東区の三日月にある三日月山霊園。

最寄りの鉄道駅は香椎駅になるが、駅から三日月山霊園まで2.5kmほどの距離があるので、歩きでのアクセスは難しい。

また、最寄りのバス停は『グリーンタウン入口』で、ここからも1.5kmほど坂道を進まなければならないので、公共交通機関でのアクセスはかなり厳しいと思われる。

今回は香椎駅まで電車で行き、そこからタクシーで行ってみた。

途中、三日月山への登山客を数人見かけた。墓地周辺に複数の登山口があるので、人の出入りがそれなりにあり、それだけで少し安心感がある。

平尾霊園ほどとはいかないまでも、墓地の薄暗いイメージは無く、ひとりで歩いていても怖さのようなものはほとんど感じなかった。

ただし、山の中なのでイノシシ、サルなどの野生生物はいる模様。

管理事務所、トイレも完備されていた。

ちなみに、こちらも墓地内に車の乗り入れが可能。

【西部霊園】

西区の飯盛山にある西部霊園。

鉄道の最寄り駅は『橋本駅』、最寄りのバス停は『野方台団地』となっている。

鉄道、バスともに西部霊園までは非常に遠く、しかも坂道なのでアクセスはほぼ車に限定されると言ってよい。ここにも、タクシーで行ってみた。

交通アクセスに関してはやや難易度は高いが、眺めは格別。

おそらく、福岡市立霊園の中では最も標高の高い場所にあるので、福岡市内が一望できる。

すり鉢状の立地にあり、各区画に遮るものがないため見通しがよく、とても明るい。

管理事務所、トイレ、水道などの施設も綺麗でしっかりしているので安心感がある。

西部霊園も車での乗り入れが可能なので、墓地の区画の横まで車で行くことができる。

【まとめ】

平尾霊園の合葬墓についても多数の埋葬が可能とはいえ、募集数に対して応募数の方が多く、抽選が行われているのが現状である。ユーザーのニーズを満たす墓の整備は追いついていない。

多死社会が目前に迫った今、墓地の問題に対する課題はまだまだ多いといえる。

個人的には散骨などをもう少し柔軟に行えたらと思ったりもするのだが、行政もそんなことはとっくに検討した結果の現状であろうから、なんとも言えないところである。

【参考文献・参考サイト】

[1]福岡市立霊園,https://www.fukuokashi-reien.jp,(参照 2022-11-17)

[2]福岡市立霊園 “令和4年度 福岡市立霊園抽選会 申込み状況”,https://www.fukuokashi-reien.jp/img/boshu/r4_ippan_jokyo.pdf,(参照 2022-11-17)

[3]福岡市立霊園における合葬墓等構想委員会“福岡市立霊園における合葬墓等構想の検討資料”,1-1 検討の背景,https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/61735/1/shiryou5_fukuokasiritureiennniokerugassoubotoukousounokentousiryou_hounpenn1.pdf,(参照 2022-11-17)

[4]樺山玄基. 令和時代のお墓入門. 幻冬舎, 2020, p.99

[5]樺山玄基. 令和時代のお墓入門. 幻冬舎, 2020, p.100

[6]朝日新聞 “公営の「合葬墓」、大都市圏で急増 生前予約が殺到”. 2019-01,https://www.asahi.com/articles/ASM1F61QDM1FPTIL01C.html,(参照 2022-11-17)

[7]福岡市立霊園における合葬墓等構想委員会“福岡市立霊園における合葬墓等構想の検討資料”,1-1 検討の背景,https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/61735/1/shiryou5_fukuokasiritureiennniokerugassoubotoukousounokentousiryou_hounpenn1.pdf,(参照 2022-11-17)

[8]福岡・佐賀KBC NEWS,https://youtu.be/iY4YYA4g0y0,(参照 2022-11-17)

・福岡市保健福祉局生活衛生部生活衛生課“福岡市立霊園における墓地・納骨堂の需給状況について”,https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/65020/1/fukuokasiritureienngassoubotoukihonnkousou_shiryouhenn2.pdf?20180831131140,(参照 2022-11-17)

・福岡市立霊園における合葬墓等構想委員会“福岡市立霊園における合葬墓等構想の検討資料(2)”,https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/61735/1/shiryou5_fukuokasiritureiennniokerugassoubotoukousounokentousiryou_hounpenn2.pdf,(参照 2022-11-17)

・槇村久子, 福岡市合葬墓の開設とその背景 ~福岡都市圏と社会動態から~, http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3222/1/0160_034_007.pdf.

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福岡で古本屋「ふるほん住吉」の店主をしつつ、ブロガー/イラストレーター/執筆業などをしながら自由気ままに暮らしています。著書:福岡路上遺産(海鳥社)、福岡穴場観光(書肆侃侃房)、山田全自動でござる(BOOKぴあ)など
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