脱サラして小規模な古本屋を開業した男の顛末【その3:開店4日目〜開店22日目】
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もくじ
【その1:プロローグ〜開業準備】
【その2:開店初日〜開店3日目】
【その3:開店4日目〜開店22日目】←今このページ
【その4:開店23日目〜月次決算】
【その5:廃業】
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開店4日目
この日はぼちぼち集客がありました。
また、ヤフーオークションの方も数件落札がありました。
あなたは今日もヤフーオークションの
写真を撮影して、商品説明を書いて、価格を決めて・・・・
という作業を繰り返しています。
効率は上がってきて掲載する時間もかなり早くなって来ましたが、楽しい作業とは言えません。
そして発送業務。
あなたは商品梱包作業を苦手だと感じています。
しかし、待っているお客さんがいるので、可能な限り丁寧に梱包し、発送しました。
「これがずっと続くのかな・・・」
そう考えると、早くも少し憂鬱な気持ちになっています。
この日も売上はヤフーオークション5,000円+店舗5,000円=合計1万円程度でした。
開店5日目
お店を開店させ、PCを起動し、ヤフーオークションをみてみると先日の取引に対して「非常に悪い」の評価が付けられています。
「えっ?!商品に何か不具合でもあったかな?」
あなたは背中に嫌な汗を感じました。
評価のコメント欄を見てみると、
「送料160円を取られましたが140円で送られてきました。詐欺ですね。」
と書かれています。
先日メール便で送れなかった分を定形外送った際に、お客さんからもらっていた送料よりも安い値段で発送してしまっていたのです。
「たった20円なのに・・・」
あなたは少しそう思いましたが、急いでお客さんに連絡をし、オーバーして徴収してしまった20円をお客さんの銀行口座に振込で返金する事で、なんとか話をまとめることができました。
商品代金以上の振込手数料がかかってしまい、この取引は完全に赤字です。
「この取引でいくら損をしたのだろう?」
あなたはここにきて、ようやく利益や原価のことを考えるようになりました。
「振込手数料が420円、落札金額が300円、仕入れ値はおおよそ50円ということは300円-420円-50円=-170円か・・・」
と考えましたが、人件費、梱包資材、その他もろもろの固定費の事を計算に入れていません。
それらを含むと、もっと大きな損失が出ているはずですが、あなたは誤った計算方法で「170円の損ならまあいいか」と気楽に考えています。
この日の売上はヤフーオークション5,000円+店舗10,000円=合計1万5千円程度でした。
開店6日目〜20日目
ちょこちょことしたトラブルなどがあったものの、だいぶ要領がわかってきたので効率は確実に上がってきています。
梱包もシステマティックにして、配送業者に集荷も依頼しました。
しかし、単調な作業が続く日々に嫌気が差しています。
「自分が考えていたイメージとずいぶん違うな」
と理想と現実のギャップを感じています。
ただ、これまでに感じたことのない達成感のようなものはあったので、複雑な心境です。
1日の売上は平均すると1万円程度です。
何となく目標としていた100万円には程遠いですが、まだ始めたばかりだからと自分自身に言い聞かせました。
開店21日目
開店から約3週間、1日も休みを取らずに働いているため、少し疲れが出てきました。
いつものように来店してくれたお客さんの対応、オークションの掲載作業、発送など淡々とこなしていますが、少しぼーっとしているため、注意力が散漫になっています。
ヤフーオークションで落札された本を発送しようと在庫を確認してみると、その本がどこにも見当たりません。
どこか別の場所にあるのではないかと、店内をくまなく探しましたが、やはりみつかりません。
冷静になってよく考えてみると、オークションで落札された商品を来店してくれたお客さんに売ってしまったような気がしてきました。
いつもなら、オークションで売れた商品はすぐに別の場所に確保していたのですが、その日はぼーっとしていて、その作業を怠ってしまったのです。
オークションで落札してくれた方にメールで返金する旨の連絡を入れます。
すぐに返事がありましたが、かなり怒っています。
どんなに謝っても「何とか商品を準備しろ!」の一点張りで分かってもらえません。
あなたは仕方なく、倍近い値段で同じ商品を購入し、そのお客さんに発送しました。
サラリーマンの時にはミスを誰かがフォローしてくれたり、一緒に考えたりしてくれましたが、今は全てが自分の責任です。
全てのことをあなた一人で解決しなければならないのです。
あなたはこの一件でかなり精神的にダメージをくらってしまいました。
開店22日目
昨日のミスを引きずっているあなたは少し元気がありません。
気分が乗らないから、という理由で店を休むわけにもいきません。
なんとか頑張ってその日の作業をこなしていると、店に数名の子供たちがやってきました。
子供が店にやってきたのは初めてであなたは少しうれしくなります。
少し落ち込んでいましたがこれがきっかけで気持ちが切り替わります。
子供たちは漫画本を熱心に品定めしています。
ある子供がレジにやってきて
「これはいくらですか?」
と聞いてきました。
あなたは
「値段はここに書いてあるよ」
と笑顔で教えてあげました。
また別の子供が
「これはいくらですか?」
と聞いてきました。
同じように
「値段はここに書いてあるよ」
と教えてあげました。
しばらくすると、最初に値段を聞いてきた子供が再び
「これはいくらですか?」
と聞いてきました。
あなたは「あれ?さっき教えなかったかな?」と思いながら
「値段はここに書いてあるよ」
ともう一回教えてあげました。
結局一人の子供が100円の本を買って帰っただけでしたが、普段来ない客層が来たことで嬉しく感じました。
その日の作業を終えて、本棚の整理をしていると、漫画本が20冊ほどごっそり無くなっていることに気づきました。
今日、漫画は1冊しか売れていないはずです。
「やられた!」
そう思ったときには もう時既に遅し。
おそらくあの子供たちが万引きしたのでしょう。
つかの間の喜びに浸っていたあなたは再び奈落の底へ突き落とされてしまいました。