脱サラして小規模な古本屋を開業した男の顛末【その4:開店23日目〜月次決算】
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もくじ
【その1:プロローグ〜開業準備】
【その2:開店初日〜開店3日目】
【その3:開店4日目〜開店22日目】
【その4:開店23日目〜月次決算】←今このページ
【その5:廃業】
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開店23日目〜30日目
あなたは立て続けに発生したトラブルからもだいぶ立ち直り、月末に向けて気合を入れ直しました。
持ち前の根性で、ヤフーオークションへの商品掲載点数は500点を超えました。
掲載数が増えるほど、落札件数も増え、徐々にネットでの売上も上がってきました。
店舗の方も、少しずつですが客数も増えてきて、早くも固定客らしき人もできました。
度々来てくれるのは本当にありがたいのですが、長い時間話し込んでしまうと色々な作業がどんどんたまっていきます。
しかし、せっかく獲得した店のファンですのであなたは最大限にもてなしました。
1日の平均売上は店舗5,000円、オークション10,000円、合計1万5千円ぐらいに上がってきました。
作業の効率も最初の頃に比べて格段に上がり、少しだけ余裕も出てきました。
ようやく古本屋をやっているんだという実感を持つことができるようになって、仕事を楽しいと思えるようになっています。
開店31日目
今日は月末最終日です。
店を閉めたあと、あなたは今月の月次決算を行いました。
売上金額は毎日計算していたので、おおよそ50万円だということは把握していました。
しかしあなたは 売上=収入 に近い感覚でいます。
50万円を稼げたのはなかなか上出来なのではと考えているのです。
売上から様々な経費を引いていきます。
原価 15万円(原価率およそ30%)
家賃 20万円
諸経費(電気・ガス・梱包資材など)10万円
借金返済 10万円
人件費(自分の給料)30万円
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経費合計:85万円
つまり売上50万円-経費85万円=−35万円。
「マイナス?!」
そうです、赤字なのです。
自分の人件費の部分を考慮しないとしても-5万円の赤字です。
あれだけ頑張ったのにマイナスになってしまいました。
あなたはこれまで売上のみにとらわれていて、利益のことは何も考えていなかったのです。
「では100万円の売上があったらどうなのか?」
そう思い、売上100万円での収益をシュミレーションしてみました。
原価 30万円(原価率およそ30%)
家賃 20万円
諸経費(電気・ガス・梱包資材など)10万円
借金返済 10万円
人件費(自分の給料)30万円
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経費合計:100万円
売上100万円-経費100万円=利益0円
つまり、100万円の売上を出してやっとトントンになるのです。
あなたは認識の甘さを痛感します。
「100万円の売上を上げるためにはどれぐらいの商品を売らなければいけないのか・・・」
あなたはようやく現実的なことを考えはじめました。
あなたが考えた100万円を売り上げるためのシュミレーションはこうです。
根性で休みなしで30日丸々稼働するとして100万円÷30日=1日あたりの売上は 3.3万円
客単価が500円だとすると 3.3万円÷500円 = 66人 つまり、1日に66人に毎日毎日、確実に買ってもらわなければなりません。
来客した人の10人に1人が何かを購入すると考えれば1日660人に来てもらわなければならないのです。
660人が1日に来るということは、10時〜20時までの10時間営業だとすると、1時間あたり66人の人が来なくては達成できません。
つまり、おおよそ1分につき1人の人が確実に入ってこないとこの売上は成り立たないのです。
そもそも、店舗の広さから言ってもこの客数をさばけるキャパはありません。
「それならば、いっそオークション限定にすればどうだろうか?そうすれば発送作業だけですむし・・・」
客単価が500円だとすると 3.3万円÷500円 = 66個 つまり、1日に66個を毎日発送しなければなりません。
1個梱包するのに10分かかったとすると10分×66個=660分かかります。
660分=11時間です。
つまり、あなたは仕事中のほとんどの時間を梱包・発送作業のみに費やすことになります。
さらに、ネットショップの場合は商品撮影、掲載作業、カスタマーサポートなど諸々の作業も発生します。
あなたは起きている間のほとんどをクリエイティブでない雑務に費やすことになるのです。
これは店舗とネットの比重を半分ずつにしたとしても、かなり厳しいでしょう。
しかし、あなたはこの計算をしたおかげで古本屋の利益率がいかに小さいものかを気づくことができました。
これまで希薄だった考えを改めて、しっかりと利益計算をした上で行動しなければならないと実感することができたのです。
「いろんなお店でトイレの電気は消して下さい と書かれているのはそういうわけだったのか」
と妙に感心したりもしました。