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脱サラして小規模な古本屋を開業した男の顛末【その5:廃業】

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もくじ

【その1:プロローグ〜開業準備】
【その2:開店初日〜開店3日目】
【その3:開店4日目〜開店22日目】
【その4:開店23日目〜月次決算】
【その5:廃業】←今このページ

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方針転換

あなたは翌日からはこれまでのとにかく数を売れ!という戦略を改めて、高額商品をいかに売るかということに方針転換をしました。

これは!という商品は少しお金を払ってヤフーオークションの「注目のオークション」(※ヤフーオークションはお金を払うと目立つ場所に掲載できる)に掲載したり、漫画全巻ドットコムを参考にして店頭では漫画全巻セットの販売に力を入れたりしました。

数カ月後、薄利多売から方針転換をしたことで徐々にうまく回り始めました。

しかし、やはりギリギリ赤字のラインから抜け出すことができません。

本を見るのが嫌になりはじめる

更に数カ月後、あなたは当初のやる気を失いつつあります。

数字に追われ、自分の時間もほとんど取れません。

そもそも、本が好きで始めたはずの仕事なのに、全く本を読まなくなってしまいました。

「あれ?俺は何をやっているんだっけ?」

「やりたかったことってこれなのか?」

そう考えることが多くなってきました。

「というか、少し本が嫌いになりはじめたかも・・・」

あなたは本を見ると、仕入れ値はいくらぐらいかな、いくらで売れるかな、などと考えてしまって本を見るのが嫌になりはじめていたのです。

うつ

過労と心労からあなたはうつ気味になりました。

店を臨時休業することも増えてきて、固定客もだんだん離れていきます。

オークションだけはなんとか続けていたのですが、自分が商品を梱包して発送するだけの機械のように思えてきました。

そのような状態なので経営状態はもちろん赤字続きです。

もうやめよう・・・

そんな日々を数ヶ月続けていたある日、自分の店舗の2つ上の階でボヤ騒ぎがありました。

店には火も来ず何も燃えることはなかったのですが、消火の際の水が一部の本にかかってしまい、百数冊がダメになってしまいました。

こういったトラブルや法律に詳しい知人にダメになった本の補償をしてもらえるかを相談してみましたが、補償してもらえなくもないが面倒な手続きや書類作成の費用が発生するし、その割に仕入れ値程度の補償しかないはずなので、手間と経費を考えると逆に損をする可能性があると言われました。

これがきっかけとなり、あなたはフッと気持ちが切れてしまいました。

「もうやめよう・・・」

あなたは水に濡れてふやけてしまった本を処分しながらそう考えました。

廃業

あなたは店舗を閉店し、在庫など諸々を全て清算しました。

結局親戚と知人への借金が300万円ほど残ってしまいました。

50万円を無利子で融資してくれた親戚は笑顔で

「残りの返済は出世払いで大丈夫だよ」

と言ってくれましたが、必ず滞り無くお返ししますと約束しました。

あなたは少し残念だと感じてはいますが、概ねはスッキリした清々しい気持ちです。

そして、何よりも、また本を読む時間が取れるようになったことに大きな喜びを感じています。

本が好きで始めた仕事で、本に囲まれて生きていながら本を読む時間を取れなかったことに強い矛盾を感じていたのです。

「辞めたあとも本が嫌いなままだったら どうしようかと思っていたけど、また好きになれてよかったよ」

と苦笑いしながら、あなたは この失敗談を肴に友人とお酒を飲むのでした。

最後に

以上が脱サラして古本屋を開業した男の顛末です。

今回挙げたこの例は当然 失敗例です。

準備不足や認識の甘さを考えると当然の結果だと思います。

始める前に利益計算をしない奴がいるのかよ?と思われた方も多いと思いますが、驚くことに これが意外と多いようです。

私自身も、起業をしたいという人と話をすると、事業を起こそうと考えている人なのに、売上=収入と思っている人が相当数いるような気がします。

そういう意味では、彼の失敗から何かを学ぶべき人は一定数いるのではないかと思います。

この記事が誰かのお役に立てましたら幸いです。

古本屋開業入門―古本商売ウラオモテ
古本屋開業入門―古本商売ウラオモテ

Y氏(山田全自動)
ふるほん住吉店主:Y氏(山田全自動)
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福岡で古本屋「ふるほん住吉」の店主をしつつ、ブロガー/イラストレーター/執筆業などをしながら自由気ままに暮らしています。著書:福岡路上遺産(海鳥社)、福岡穴場観光(書肆侃侃房)、山田全自動でござる(BOOKぴあ)など
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